クリフのコンサートが‘04年の4月にローヤルアルバートホールであることがわかったとき、チケットだけでも取っておきたいと思ったのは、どういう気の迷いだったのだろうか?その頃の私は、遠方にいる両親のことや町内会のボランティアや娘の入試などで多忙を極めていた。でも4月になれば町内会と入試からは開放される。なら、行けるかもしれないという、実に楽観的な気持ちを持っていたのだろう。

 しかし4月が近づいてみると、その見通しの甘さを痛感した。娘の大学は決まったが、今度は下宿探し、そして引越しと、3月中はあわただしく日が過ぎてしまった。一緒に行こうと約束をしていたYをはじめ友人たちに迷惑をかけまくって、旅の計画を練った(いや、練ってもらった。)私自身が本格的に旅の準備を始めたのは、なんと出発の二日前。といってもトランクに荷物を突っ込んだだけなのだが。それもトランクが海外旅行用ということだけで、近場に一泊旅行にも出かけるような軽備さだった。

 

 413日。いよいよ成田を出発。乗り込んだヴァージン航空は満席。座席幅がJALなどと比べて狭いので12時間はかなりきつかった。寝ようと思ったがなかなかそういうわけにもいかず、寝不足のままヒースロー空港に到着。タクシーで、宿泊を予定しているB&Bへ。車中から見る五年半ぶりのロンドンは、あまり変わったようには思えなかったが、季節柄、あちらこちらに桜の花が咲いているのが見えた。ロンドンの桜は、日本のものよりピンクが濃いという感じだった。私にとてってロンドンというと、壁のレンガ色と芝生の緑、そして赤いバスというのが印象に残っている色なのだが、今回はそれに桜のピンクが加わった。

 宿はオックスフォードストリートに歩いてすぐの所。荷物を部屋に運び込んでやっと一息ついた。しかし大して休む間もなく、クリフのコンサートを見るべくローヤルアルバートホールへ向かった。

 

 RAHの近くで私のイギリス人の友人とおちあった。彼女は40年以上クリフのファンである。ハグをして、お互いに元気で再会できたことを喜んだ。そして話題はすぐにクリフのことに。彼女はもうすでに何回かコンサートを見ていた。彼女は非常に寂しそうに「今回クリフはほとんど動かずに、ただ立って歌うだけだ。彼も年をとったものだ。」と言った。私とYはびっくりしたが彼女はすましていた。 もちろんこの彼女の発言は、彼女独特のジョークだということはこの後すぐにわかるのだが。

 チケットは別々に買ったのでYとは全く別の場所に座った。イギリス人にまじって一人座っているのは、あまり居心地のいいものではない。しかし830、クリフの影が三箇所に現れ、Heart Break Hotelのサウンドが流れ始めると、そんなことはすべて忘れてしまった。

 一部は古いロックンロールを中心としたナンバーで構成されていた。男二人、女二人のダンサーが歌によって登場するのだが、これははっきり言って邪魔。特に’Without You’の女性二人の踊りはいただけなかった。一生懸命踊っているのに申し訳ないのだが、クリフのコンサートにセクシーな踊りは必要なし。先ほどのイギリスの友人に言わせると、奥さんについてきた旦那を楽しませるものなんだそうだ。ともあれ、クリフのロックンロールは最高である。バラードもいいのだが、私はノッテ一緒に歌えるような曲の方がどちらかと言えば好きだ。どんな曲が歌われるかを、私は敢えて頭にインプットしてこなかったので、次々に出てくる懐かしい曲は、もうお涙ものだった。クリフもノリノリで舞台狭しと動き回っていた。歌の合間にはファンの人たちがプレゼントを渡しに行き、その一人一人にクリフが話しかける。ユーモアにとんだ会話は会場の笑いをさそっていたが、私にはさっぱり聞き取れない。クリフの声が聞こえてるというだけで満足することにした。

 二部はバラードと秋に出る新アルバムの曲が主だった。今回、日本に残った私の友人たちは’Ocean Deep’が好きなので、彼女たちの分もと思い、この曲にはことのほか耳を傾けた。ビージーズ提供の曲は説明を聞かなくてもすぐにわかる、ビージーズサウンドだった。ノリも良くて耳に心地よいのだが、バックコーラスもビージーズ風でなんか笑ってしまった。最後の曲‘The Faithful One’は、歌詞の内容はよくわからない私のような者の心をも動かす壮大な曲だった。そしてコンサートの最後に、息も切らさず、声もかすれさせずに、この歌を歌ったクリフにも感動した。
ちなみに本日のクリフの服装は一部はジーンズに金の上着で登場。途中ピンクの上着にお召し変え。二部は銀色の上着からコバルトブルーに着替えた。

 コンサート終了後、この日はそのままタクシーでホテルへ。5ポンド紙幣を混ぜて支払おうとすると、タクシーの運ちゃん曰く「この札は受け取れないから、明日銀行で変えてもらいな。」エッーー、ウソーー。イギリスのお札かわっちゃったのかぁ?!実はこのお札、五年前のイギリス訪問の折に残ってしまったものだったのだ。

 

ケンジントン公演を抜けていくと、円形の落ち着いた趣きのあるRAHに到着した。正面の高い所にCLIFF RICHARDと書かれた赤いフラッグが掲げられていた。それを見てやっとクリフのコンサートにイギリスまで来たんだという実感が沸く。

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